Lens Kyoshitsu Top




素人レンズ教室-その23

  
アストロ・ベルリンのシリアル番号と年代の推定



麗子先生 : みんな、今日は宿題があるわよ。
ジロー : ええ、珍しいな。これからはるかと写真撮影に行く予定があるから、難しいことは勘弁してちょうだい。
はるか : なに、ふざけてるの。先生どんな課題ですか。
麗子先生 : 難しくはないけど、難しい課題ね。
ジロー : 変なの??
麗子先生 : みんな、アストロ・ベルリンというレンズは知っているわね。
ジロー : 知ってるよ。タッカーとかタッハーとか、タションとかタホンとか言われるレンズを作ったメーカーでしょ。
麗子先生 : そうよ。今日帰ったら、自分のレンズやインターネットを調べて、レンズ名と焦点距離、絞り、そしてシリアル番号をできるだけ集めてきてね。
         わかった?
はるか : それだけでいいのですか。了解でーす。

そして、次の日みんなは数多くのデータをレンズ教室に提出した。

そして、その数日後。ジローとはるかが学校に入ると、、、。
そこには何人もの生徒の人だかりが、、、。

ジロー : どうした、どうした??ちょっと見せて。
       おお、何か大きな掲示がしてあるぞ。なになに。
はるか : 「この度、当レンズ教室では、生徒たちから提出されたデータをもとに、アストロ・ベルリン社のレンズ番号とその製造年代を以下の通りとする
       ことにしましたので、その根拠とともに、ここに掲示します。この内容に異論のある生徒は一週間以内に教員室に申し出てください。」だって。
ジロー : ほほう、麗子先生たちもなかなか大胆なことをやるな、、、フムフム。
はるか : なに感心しているのよ。内容は以下の通りね。

掲示(2016年5月23日)

 標題:アストロ・ベルリン社(1922年設立)の製造番号と年代の推定について。

(1)推定根拠

 ①Tacharの特許は1925年で、製造開始は1926年と言われている。シリアル140番のSuprar 50mmf2.3というレンズは詳細不明だが、1922-25年の間に
   製造されたものであろう。Tacharの確認できるもっとも早いシリアルは355番。1926年か。

 ②Rosher Kino Portraitは1926年から製造という説、映画テンペスト(1928)のためにRosher撮影監督がオーダーしたのが始まりという説などがある。
   いずれにせよ現在確認できるもっとも古い10140のレンズは1928年以降とするのが妥当か。

 ③Astrarの名称登録は1930年にされている。14868と14996のAstrarが確認できているが、このころを1930年か1931年とするか。

 ④Tachonは1933年から製造されている。Tachonで確認できている古い番号16234は1933年以降となる。

 ⑤MINIFEXカメラは1931年から1935年まで製造されている。同機に装着が確認できている16497から20117のレンズは1931-1935の間に入ると想定される。

 ⑥Astro portrait 150mmf2.3は1934年の広告から登場している。確認最古の19040を1934年程度と考えると、上記MINIFEXとも合致する。

 ⑦Pan Tachar150mmf1.8は1956年から通常の製造が始まったとの記事があるが、33671という古い番号と、59392,62170,64179,64217という近接した
   番号が確認できる。33671のものは軍用グレーライカⅢCに装着されており、特殊対応と考えられることから、59000番あたりが1956年と考えるのが妥当か。

 ⑧Astro社は第二次世界大戦末期にほとんどの施設が破壊されたという記事があり、戦後の再開は1948年と遅い。

 ⑨Pan Tachar125mmf2.3の製造は1950年からとの記事がある。シリアルは35819が1本確認でき、それ以外では39600-700番台に複数本確認できたのみ。
   3万番台のレンズをマーケットでピックアップすると、前半のものが多く、37000番以降は数か少ないようである。現在確認できているもっとも最後の
   3万番台は39951だが、このギリギリの番号まで戦前に作り、4万番台を飛ばし、5万番台から戦後が始まったというのは切が良すぎる感じがする。
   37000番あたりで戦争中断し、1948から工場再開。38000-9000番あたりから再開したのではないか。4万番台が1本しか確認できていない理由は
   不明である。

 ⑩2000mmf10のレンズは1957年のフォトキナで登場しているが、シリアル68985番で1962年と明記されている記事がある。

 ⑪Astro Astanレンズは番号体系は別のようである。


(2)推定番号・年代表

 1922年  設立
 1924-5年  レンズ生産開始 Suprar50mmf2.3製造
 1926年  Tachar製造開始
 1926-28年  xxxx-Tacharという名称のレンズが多数作られる。
 1928年  10000番
 1931年  15000番
 1933年  16000番
 1934年  19000番
 1935年  20000番
 1942年  33671番
 1944-45年  37000番あたりで戦争中断
 1948年  再開
 1950年  39000番
 40000番台は47511の1本だけが確認できている。赤字のC(コーティング?)が刻印されているので、後期のグループに属すると思われる。
 1956年  59000番
 1962年  68985番
   


(3)参考とされたもの
  ・Motion Picture Photography: A History 1891-1960
  ・ALL LENSES.org
  ・Popular Photography 1950,1951,1957
  ・collectiblend.com
    ・ebay.it, ebay.com
  ・Wikipedia, Camera Wiki
  ・exaklaus.de/astro
  ・Patent US1540752 , DE5338872
  ・other HP, Blog


(4)レンズ個別データ一覧
 添付参照のこと。


以上


ジロー:一言でいって、よくわからんということか。
はるか:そんなことはないわよ。それなりに理屈は通っているし、これをきっかけに誰かがもっと正確な資料を見つけてくれればいいんじゃない?
ジロー:それもそうだ。さあはるか教室にいくぞ。
はるか:あっ、ジロー待ってよ!

(続く)




<生徒たちが調べてきたシリアル番号とレンズ名、焦点距離など>